【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》

古都、薬を売る老翁(壷公)がいた。翁は日暮に壺の中に躍り入る。壺の中は天地、日月があり、宮殿・楼閣は荘厳であった・・・・

現代の探検家《田邊優貴子》 =100=

2017-05-01 16:36:32 | 浪漫紀行・漫遊之譜

○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子= ○

= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =

◇◆ 人間の時間と地球の時間-最終章- = 1/3= ◇◆

「白い谷にはね、青い石が眠ってるんだよ」 わたしは秘密の地図を広げながら、白い谷の場所を指差してみせた。

 2010年1月30日、午前9時30分。きざはし浜小屋の撤収を5日後に控え、スカルブスネス露岩域からさらに30キロメートル南に離れたスカーレンという露岩域にわたしたちは来ていた。

  2泊3日の野外調査の予定だった。 必要最小限の調査用具、テント、シュラフ、食糧。 できる限り荷物を少なくして、オーストラリア人パイロットのピーターが操縦する小型ヘリコプターでやってきた。 この年、しらせには、自衛隊の大型ヘリコプターCH101が2機の他に、観測隊がオーストラリアからチャーターした5人乗りの小型ヘリコプター、通称“Aussie−1”が搭載されていた。 

  あまり物資を運ぶことができないAussie−1だが、その分とても小回りが効き、徒歩で行けないようなエリアへ調査に出かけるのには素晴らしく適していた。 CH101では着陸できないような恐ろしく狭い地点にも着陸することができ、わたしはいつも驚かされた。

 ピーターに別れを告げ、すぐさま3人分のテントを設営した。  「みんな、久しぶりの1人暮らしだね」   「はは。うん、そうだね」  笑いながら、テントの中にマットを敷き、自分の荷物を入れ、シュラフを広げた。 いつもは小屋の中で3人暮らし。 けれど、今日は贅沢に1人につきテント1張りだった。

 1人の空間で寝るのは45日ぶりくらいだろうか。 と言っても、みなすぐそばにテントを張っているのだが。

 短い期間での調査だったので、すぐに出かける準備をした。 ここスカーレンに来たことがあるのはわたし1人だけ。 ポケットから1枚の秘密の地図を取り出し、ここのエリアの湖や植生について一通り説明し、おもむろにある一点を指差した。 そこが、青い石の眠る白い谷がある場所だった。

 青い石———それはサファイアのことだ。

 南極ではいたるところに宝石がある。 と言ってももちろん原石そのままの状態で、とりわけよく見つかるのがガーネットだ。 この赤い石は本当にもうどこにでもあり、とある海岸はガーネットの砂で覆われて赤い色をしているほどである。そして、ここスカーレンの一角には白い大理石でできた谷があって、そこにはサファイアの原石がたくさん見つかるのだ。 2年前に来たときにわたしは自分の地形図上に“白い谷”と書き込み、まるで宝の地図のように思わせぶりに、そのポイントに星印をしるした。

 だから、ポケットから出した秘密の地図は、秘密でもなんでもないのだ。 普段から使っている国土地理院発行のスカーレンエリアの地形図を、使いやすいようにA4サイズに印刷し、必要な情報を自分で書き込んであるだけものである。 しかも当たり前のことだが、わたしを含め、みな、青い石なんかよりも先に湖の調査をして、コケ群落がある岬に行こう、という意見で一致した。

 わたしたちはいつものように湖の調査を手際よく終え、正午過ぎにはコケ群落がある岬のほうへ向かった。 その岬はベースキャンプから歩いて2時間ほどの距離にある。

 この1か月間歩き慣れたスカルブスネスとはまた違った風景がスカーレンには広がっていた。 湖から平坦な砂地をずっと歩いていくと、向こう側に大きな氷河がいくつも見えてきた。 いくつかの小高い丘を越えていくうちに、どんどん氷河が大きく迫ってくる。丘を越え、氷河に近づくたびにわたしの胸は大きく高鳴っていった。 ついに海岸線が見える最後の丘を登り切った。 視界を遮るものは何もなく、急激に海へと落ち込んでいる切り立ったいくつもの氷河が凄まじい迫力で目に飛び込んできた。 一気に心が震え、頭の先まで閃光のようなものが突き抜けた気がした。

 「わぁ────!!!」  抑えきれず、わたしたちは声に出して叫んでいた。

 青く澄んだ空が海に映り込み、太陽が氷河の亀裂に青く陰影を落としている。 その光の差し方と色、360度のパノラマ。 とてつもなく壮大な景観だった。

  海岸線と平行したまま丘の上を歩いていくと、海岸沿いに緑色のコケ群落が見えてきた。 砂浜にコケのカーペット、そして背後には無数の氷塊が浮く海とダイナミックな氷河。

 なんとも不可思議だった。 けれど、その不釣り合いな光景こそ、南極が持っている一面なのだろう。わたしにとって、生まれて暮らしてきた場所で出会ったことがわたしの世界であり、常識であるだけなのだ。 南極で目にするものの多くを不可思議に感じるのも無理はない。 

  わたしの常識をはるかに超えているのだから。 そしてそれは、いつも何かを語りかけてくる。 わたしの心を震わせ、好奇心を駆り立て、想像力を解き放ってくれる。

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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